多くの室内楽の印刷パート譜には、要所要所に指づかいが印刷されている。これ、みなさんはどう使われているだろうか?頭がいい運指だと感心するものもあれば自分の好みと相容れないものもあって、けっこう無視をしてしまうケースも多いのではなかろうか?

でも、この印刷運指の通りに練習しておくと、なにかと便利だ。

アマチュアに多い室内楽の「場」は、メインにやる曲を事前に決めてあっても「まあ指慣らしから」とかなんとか言いつつ有名曲のさわりを弾き散らす、もしくは、メインさえ決めずに一期一会を楽しむ、というパターンだろう。で、ありがちなのが、他人様の楽譜をその場で見て弾くという状況だ。当然、「印刷運指はこうだが私の運指はこうだ」と頭をめぐらせながら合奏できるほど弾き込んでいるケースは少ないので、印刷と好みが合わずオタオタする確率が増える。

そういう時に印刷運指で練習する習慣がついていると、これほど心強いものはない。だいたい、同じ曲を何回も皆で練習する(ということになっている)ケースでも、そこはわれわれ非職業音楽家の弱いところ、毎回まじめに隅から隅までさらってから全員練習に臨む人ばかりでもないはず。結局、印刷運指から逸脱して練習していると、よほど細かく丹念に自分独自の指づかいをパート譜に記入していない限り、合奏のどさくさにおいては、またまた印刷運指に惑わされたりするのがオチだったりする

もともと大手の出版社がわざわざ運指を書き込んでいるのだから、「たかが印刷運指、されど印刷運指」なのである。少々理不尽に見える運指も、実は深い工夫の成果である可能性は高い。自分のフィーリングに合わないということは自分の指づかいの守備範囲が狭いということの裏返しでもあるわけで、そういう指づかいに敢えて取り組むことは、技量向上に資するところも大だろう。

有名作曲家の有名曲は、結局みんな同じ出版社の楽譜を持っていることが多い。最初はとっつきにくいけれど、印刷運指に徹底的に従って練習しておくのは悪くないのではなかろうか。