【編成】弦楽四重奏
【収録曲】ヨハン・シュトラウス一世作曲「ラデッキー行進曲」Op.228
【編曲者】Carlo Martelli
【出版社】Broadbent & Dunn Ltd

ブロードベント&ダン社によるクラシックの名曲を弦楽四重奏曲にアレンジした楽譜シリーズからの1曲。

ブロードベント&ダンは弦や管楽器のためのアレンジ譜、新曲を数多く出版している英国の会社だが、日本の弦楽器奏者にとっては、この弦楽四重奏アレンジ物シリーズばかりで知られているのではなかろうか。

ひところはこのシリーズが各地の楽譜売り場でかなりの面積を占めていたものの、最近は国内譜の充実もあってか、あまり見かけなくなった。曲の長さの割に単価が高く、またパート譜だけで総譜が含まれていないときたら、仕方が無いところかもしれない。

この楽譜の編曲者はロイヤルPOなどでヴィオラを弾いたりB級ホラー映画の音楽を書いたりといったご経歴の英国の作・編曲家。シリーズでは他の編曲者も何人か使われているものの、この編曲者の作品数はかなり多い。

いずれも奇をてらわない編曲である他、明らかにコンピューター編集の楽譜ながらも、書法は伝統的なクラシック流儀に則った自然なもので、目に優しい。本楽譜でも手馴れた仕事振りを見せている。

さて、19世紀以前のクラシック管弦楽作品の多くは弦楽器を主体としたオーケストレーションなので、弦楽四重奏へのアレンジにあたっては、もともとの弦の楽譜をベースとするだけで用が足りることが多い。その上で、管楽器のソロフレーズが足りなかったりと不都合がある部分については最低限の手直しが施される。

このシュトラウス父による超有名作は「ズンチャッ、ズンチャッ」の行進曲。したがって、1stヴァイオリンがずっとメロディーを奏で続けるだけの非常に単純な作りを多くの人は想像するはずだ。

ところが原曲譜を見てみると、チェロなどにいろいろな旋律を分担させたり、1stヴァイオリン内部でディヴィジ(パート内でさらにパートを分けること)により旋律を三度ハモリにしたりと、そのまま弦四部を抜き出してきても、うまく弦楽四重奏としては成立しそうにない。

結果、ここでの編曲パート譜は原曲の弦パート譜と予想以上に大きく異なるものとなっている。単純そうに見えて、なかなかに手のかかった編曲なのであった。

このシリーズは弦楽四重奏による演奏を純粋に追及しているものなので、オプションのコントラバス譜の設定も無く、大人数での合奏での使用は考慮されていない。

チェロ譜は、身軽なチェロでの演奏を前提に、頭打ちだけではなく、多くの「和音の穴埋め」作業をさせるものになっている。このため、コントラバスでそのまま弾かせるには音符の数が多すぎ、使い物にならない。

以前管理人が実際にこの楽譜で無理やり弦楽合奏を行った際には、結局コントラバスについてはオーケストラ原曲用のコントラバス譜を調達して弾いてもらうこととなった。

四重奏アレンジ譜がそのまま弦楽合奏譜として使えるわけではない、という典型例の一つといってもよいかもしれない。