【編成】弦楽四重奏
【収録曲】いとしのエリー、卒業写真、恋人がサンタクロース、クリスマス・イブ、他
【編曲者】前田憲男
【出版社】全音

その昔、弦楽向けのポップス楽譜は海外出版社のものばかりで、そのアレンジも「前奏無しでいきなりヴァイオリンが主旋律をなぞりだし2コーラス目はオクターブ上がるだけ」といったおざなりなものが多かった。出版が海外なので、当然日本の楽曲は対象外。

どうしてもポップスを弾きたいプレーヤー達の裏技は、今も昔も幅広い賑わいを見せるエレクトーン用のポップス楽譜を下敷きにすることだった。

そんな弦楽ポップス砂漠とも言うべき状況下で全音が出してきた「弦楽四重奏ライブラリー」シリーズは、実にありがたい存在だった。

このシリーズの、恐らく最大のヒット作であろう「ニューミュージック作品集」の第1集の編曲者は、ポップスバンド界の巨人、前田憲男。各曲にはきちんとした前奏と後奏がつき、中声にもそれなりの役目が与えられ工夫がある。

楽譜出版に先立ち同じ内容でCDリリースされているのも、編曲譜として試演済みであることの保障となっていて、ユーザーには心強かった。

最近は当たり前の室内楽編曲譜での「総譜付き」も、当時の国内出版としては物珍しかった。

「いとしのエリー」「愛を止めないで」といった大定番に混じって、「恋人がサンタクロース」などが用意されているのは、クリスマスパーティーなどの弦楽四重奏らしいニーズを考えての選曲か。とにかく今となってはまったくの懐メロな顔ぶれではあるものの、使い勝手のよい楽譜だった。

このシリーズ、最近めっきり店頭で見ることが少ない。こういうクラシック系の編曲でもポップスはポップス。流行廃りの宿命と無縁ではないのがおもしろい。