【編成】弦楽四重奏
【収録曲】マトス・ロドリゲス作曲「ラ・クンパルシータ」
【編曲者】FCミュージック
【出版社】FCミュージック

弦楽器をやっていてちょっと寂しいのは、大衆音楽のほとんどの分野であまり出る幕が無い、ということだ。柔らか系統の音楽を弦楽器でやりたい場合に頼る編曲譜は、原曲とかなり異なる肌触りに加工されたものばかり。

そうした中、タンゴは弦楽器が重要な役割を担っている数少ない「非クラシック」ジャンルの代表例だ。ただ、本当に弦楽器だけで演奏でき日本で比較的楽に入手できるような楽譜となると、選択肢は意外に少ない。ここに取り上げたFCミュージックの弦楽四重奏譜シリーズにある一連のタンゴ曲は、その意味で貴重なものと言えるかもしれない。

「ラ・クンパルシータ」はタンゴの歴史の中でも最初期の作品の一つであり、恐らく日本で最も知られているタンゴ曲だろう。聴衆にダンス好きの中高年が想定される場合、この楽譜なら結構ウケを狙うことができそうだ。

弦楽器はバンドネオンと並ぶタンゴ演奏の主役。四重奏による編曲は低音の響きに若干の寂しさはあるものの、なかなかよい雰囲気が出るし、弾く側にもそこそこの高揚感がある。

アレンジは単純で、ワンコーラスごとのバリエーションの変化もなく、演奏時間は短い。恐らく、出版側もすべてをわかった上での割り切りの編曲だろう。編曲者名が「FCミュージック」となっているのは、音大の学生さんあたりにバイトで書かせた編曲を買い取るようなお手軽な出版方式だからか。

もちろんそのまま弾いてもちゃんと格好はつくが、2コーラス目に変化を持たせたりと、実演時には奏者の側で手を入れたくなるかもしれない。ただ、本来のタンゴバンドも多くは耳コピーなどでバリエーションを膨らませて楽曲を仕上げていくわけで、時間に余裕があるならそうした作業は楽しい。

FCミュージックの楽譜は、以前は置いてある店も限られ、入手が容易とはいいかねる状況だったが、ネットの普及により出版元のサイトでサンプルを見ることも直接の注文を出すこともできるようになった。アマゾンでも多くのものを拾うことができる(価格は直販の場合と同じ)。

タンゴとしては他に「ジェラシー」「真珠採り」「エル・チョクロ」などの人気曲もリストアップされている。

同社の弦楽四重奏譜シリーズは、シャンソンなど、他社があまり手掛けないジャンルを多数持っている点でも貴重。さして凝った演奏は要らない、とにかくその曲の旋律を聞かせることができればよい、というような状況では役立つ楽譜たちである。

(→アマゾン