【編成】vnとvlaの二重奏
【収録曲】「魔笛」及び「ドン・ジョヴァンニ」から「恋人か女房か」「おいらは鳥刺し」「シャンパンの歌」他
【編曲者】不詳
【出版社】Amadeus Verlag
vnとvlaの二重奏という顔ぶれには恐らくかなりの潜在的なニーズがあるはずだが、この編成で手頃に楽しめる良い作品としてはモーツァルトの二重奏曲(K.423、K.424)ぐらいしか知られていない。
そこで、もし同じような感じの他の曲を探しているなら、ハイドンやホフマイスターの二重奏曲に行く前に、この楽譜をお薦めしたい。
これは、歌劇「魔笛」と「ドン・ジョヴァンニ」から有名曲を12曲づつ選び、それぞれ1~3分程度に可愛らしくまとめたもので、モーツァルトの歌心を手軽に楽しめるようにできている編曲譜だ。
初見で十分弾ける難易度ながら曲の構成は単純すぎず、vnにもvlaにも均等に旋律を奏でるチャンスが与えられている。
曲順は必ずしも実際の歌劇での登場順ではないが、それぞれ12曲を通してバランスよく変化をもたせながら演奏できるように配置されており、曲によってはアタッカ(休まずすぐに次の曲を弾くという指示)も前提とされている。もちろん1曲づつ取り出しても良い。実に手慣れた編曲だ。
ところで、音楽課程で学ぶ対位法などの音楽理論は、実際に鳴らしてみた時に妙な響きや無理を発生させずに美しい調和を実現するための「作曲家・編曲家の生活の知恵」のようなものだ。
特に合奏では縦割の和音だけでなく横の流れがどうしても重要なわけで、弦楽器のように基本的に1本の旋律線しか鳴らさない楽器を集めて合奏するための編曲を、試演せずに短時間でうまく仕上げるには、絶対にそうした基本理論を体得しておくことが欠かせない。
現在の編曲譜の中には、単に和音を分解して適当に横につなげただけにしか見えないものが多すぎるように思うのは管理人だけだろうか。
Amadeusのこの楽譜は、著作権のとっくに切れている大昔の出版譜をそのまま再録しているものだ。元の楽譜は、おそらくモーツァルトの歌劇を手軽に家庭で「再生して」楽しむためのものだったろう。
各パートの書法に無理や無駄が無く、手軽で良く鳴る楽譜……編曲がレコード・CD作成などと同じ種類の行為だった時代の、よく訓練された名も無き職人による手堅い仕事とみた。