「なにか合理的な『あがり』克服方法があるのではないか?」
近年、行き当たりばったりに本番を迎えるそれまでの生活スタイルを止め、心を入れ替えてあれこれ調べ、熟考し、努力を重ねてみた結果、それなりに対応の道もあることがわかってきた。以下、長らく人前で弾くことを苦手としてきた管理人の、体験的「あがり」克服術。


1.どうせ実力の半分程度しか出ないものと割り切る

本番の方が集中力が高まって良い結果になる、といった話は、特殊な才能に恵まれたり、十分すぎる練習を積んだ人間の台詞なのであって、普通は練習以上の結果が出ることは無い。実際これは真理であるし、またこのように割り切ることで冷静に様々な対応を考えられるようになる。「10回弾いて1回失敗するようなパッセージは必ず本番では失敗するものだ」ぐらいに諦めておいたほうが、身の丈にあった演奏ができるのだ。


2.「普段と違う自分」を初めから計算に入れて奏法を設定する

前項の割り切りと関連する話だが、本番の自分は普段と違う自分であることを前提に、その「本番の自分」に最適な奏法を選んでおくこと。例えば、多少素人臭くて格好が悪くても難しい指使いは避けたり、無理な重音はこっそり間引きしておいたり、手が震えても大丈夫な弓の位置になるボーイングを選んでおいたり、という工夫をしておくのである。これが心の余裕をもたらしてくれる。ギャンブルをするから緊張するのだ。


3.本番1週間前は練習より休養

毎日楽器を練習できる時間の余裕があるアマチュアはあまりいないだろう。どうしても最後の追い込み=集中練習に賭けたくもなる。しかし実際には、本番前1週間程度までに必要なレベルの全ての練習を完了させる、ぐらいのスケジュール配分にしておき、直前はむしろ睡眠を十二分にとって鋭気を養うことに専念したほうが良いのだ。

これには、脳のメカニズムに基づいた2つの理由がある。
1つ目は、疲れは集中力を削ぐ、ということ。あがりとは、実は目の前の演奏行為に集中していないという現象なのであり、集中を妨げるものは全て「あがり」を助長する要因になるからだ。同じ理由で、あがらないことを狙って本番前に飲酒するのも逆効果になることが多い、ということも知っておきたい。

2つめは、演奏時に必要な「技術=体の動作」というものは、単純に練習するだけでは身につかず、よく脳を休息させることで初めて定着するものだ、ということ。

寝る直前の暗記物が寝たことで記憶に定着する、という試験ワザは有名だし、練習し続けてもできなかったことが、日を置いてから弾いたら急にできるようになっていたということは皆経験のあるところだろう。人間の脳は、睡眠中に記憶のデフラグのようなことを行い最適化しているらしい。体の動作をコントロールするソフトも、これにより最適化されるようなのだ

とにかく、もともとたくさんの練習をやっているわけではない人間が、直前に睡眠を削って集中練習してもロクなことはないのである。


4.舞台に出る前には運動をする

神経症の悪化の回避方法として勧められている事として「とにかく体を動かす」というものがある。静かにじっとしているからよけいなことを考えたり無意味な心配が生じたりするのであって、運動により人間本来の生命の調子を取り戻し、精神的不調を克服できるのだ。これが、あがりの防止にも極めて有効。

だいたい「準備運動をせずに体の能力を全開させることなどできない」ということでもあるわけで、スポーツの前と同じ感覚でやってみるとよい。もちろん息がきれるまでやるのは逆効果であろうが、ストレッチ、ラジオ体操、ウォーキング、など、自分に合う軽めのものを試してみていただきたい。


5.根本原因は単なる練習不足であることを良く認識する

あがる根本原因を突き詰めていくと、精神力が弱いといった話では全くなくて、結局のところ「練習が不十分であるために自分の演奏の安定度に信頼がおけない」という構図に行き着く。

管理人自身も冷静に過去を振り返ると、「10回弾けば必ず10回失敗せずに通せる」ようなレベルまで練習をせず、本番に臨むことのなんと多かったことか。そう、単に「練習不足」→だから→「あがる」というだけのことなのである。この最後の「気づき」が最も重要。実際、原因がわかると、なんとなく諦めがつくというか、落ち着きませんか?