【編成】弦楽四重奏
【収録曲】”Happy Birthday” Variationen(ハッピーバースデイ変奏曲)
【編曲者】Peter Heidrich
【出版社】Sikorski
マイルドレッド・ヒル作曲による「ハッピーバースデイ」は、世界中で最も歌われる歌としてギネス認定の超有名曲。そのハッピーバースデイの旋律をバッハ風、ハイドン風、モーツァルト風、ベートーヴェン風、ブラームス風、ドヴォルザーク風、ウィンナ音楽風など、14のバリエーションを持つ主題と変奏に仕立て上げたのがこの楽譜である。
編曲というより、もうひとつの立派な作品と呼んで差し支えないだろう。
書いたペーターハイドリッヒはドイツの室内楽ヴァイオリン奏者。現在はハンブルグ音大の教授として後進の指導にあたっている人なので、もしかすると日本にもお弟子さんなどがいらっしゃるかもしれない。
80年代末に仲間内のパーティーでこの変奏曲を披露したところ大好評、その後の出版によって人気は世界的に拡大し、クレーメルとクレメラータ・バルティカ他、複数のプロ団体によるCD発売まで行われるに至った。こういった「お遊び」のアレンジ物にしては異例のことだ
それぞれの変奏は、有名作曲家の有名作品のそのまま模倣や、特徴的な楽曲スタイルの中に、ハッピーバースデイーのメロディーをかなり無理やり織り込んだもの(例えばドヴォルザークのアメリカの冒頭をハッピーバースデイーで!)だが、その作曲家の雰囲気がよく出ているので、クラシックファンにはたまらない。
反面、よほどの通でなければパロディーを楽しめなさそうな「レーガー風」や、単なるスタイルを拝借しただけで限りなく「それがどうした」的な「ジャズ風」「映画音楽風」など、ちょっと笑いをとるには厳しいものも含まれていたりする。
そこで、いくつかを取り出して弾こう、というのが誰しも考えるところ。クレメラータ・バルティカ盤もそういう趣向で、いくつか変奏を落とした上で、クレーメル自身のやや微妙なインプロビゼーションを織り込んだものになっている。
各変奏は1分前後で非常に短く、1変奏だけを取り出して弾くのはつらい。結局、主題と数変奏を組み合わせることになるが、各変奏は調性が異なっており、自分の好みだけで取り出す場合には若干の工夫が必要になる。
さてこの作品、よく考えてみると正しく演奏できるシチュエーションは非常に限定されてくる。なにせ、「クラシックをスノビッシュに愛好するような聴衆が多く集まっている誕生パーティー」のための音楽なのだ。
非常によく売れた楽譜だが、そういう本来目的のために使った奏者は世界中でどれほどいることやら。TV通販で宣伝している庭仕事道具やキッチン用品のように「一見とても便利そうだが、実は買っても使わない」という存在に限りなく近いものに思えなくもない。