【編成】弦楽四重奏または弦楽合奏
【収録曲】金髪のジェニー、夢みる人、なつかしきケンタッキーの我が家、草競馬、故郷の人々 他、全12曲
【編曲者】William Zinn
【出版社】Excelsior Music Publishing Co.

本楽譜の編曲者は、海外編曲譜を扱う向きには知っている人も多いウィリアム・ジン。彼の名義による米国産の弦楽合奏編曲楽譜は随分と多い。

もともと弦楽器奏者だったからといって、弦楽器奏者に好まれるような作曲・編曲ができるとは限らない。ジンのアレンジした楽譜は、いずれも弾きにくい重音に溢れ、器楽用の編曲に時として必要な前奏や後奏やブリッジを書き足す努力をしておらず、曲を繰り返す場面に出してくる妙な変奏パターンはぎこちなく、全体的に響きが良くない。

そういうひどい編曲者であるにもかかわらず、さまざまな楽譜がいまだに売られているのは、彼が多くの有名曲・有名作曲家について決定的とも言える取り合わせのアンソロジーを編んで出版しているからだ。要するに「企画勝ち」なのである。

このフォスターの歌曲集を弦楽四重奏またはコンバス付きの弦楽合奏用にした楽譜もその典型例。収録曲は金髪のジェニー、夢みる人、なつかしきケンタッキーの我が家、草競馬、オールド・ブラック・ジョー、おおスザンナ、故郷の人々、他。フォスターの有名作品はことごとくカバーされており、これ1冊あればすべて用が足りるという気にさせられる。

楽譜の冒頭には「それぞれ、第1部は原曲に忠実な編曲で、これは歌の伴奏としても使用できる。第2部として、器楽演奏用に創造性と芸術性を持って作られた変奏曲が付いている。学校活動や公開演奏に最適。」などと書いてある。欧米人らしい遠慮無き自慢が微笑ましい。

見るからに弾きにくそうな譜面は、実際に演奏するとさらにガッカリ感が倍増する。特に「第2部」変奏曲はあまりに出来がひどく、全12曲中の半分ぐらいしか実演に使えそうにない。

センスの悪さは各曲の構成にも表れている。第2部の変奏曲の末尾は、いかにもまだ曲が続く雰囲気で終結部として使えない。さりとて第1部→第2部→第1部と並べると単調さの割に長すぎる。前奏無しで主旋律がいきなり始まるのは初心者の教則本のようだ。

楽譜そのままでは格好がつかないアレンジ譜は少なくないが、ここまでひどいものも珍しい。