(※以下の記事は2007年のものです。)

アマチュアの弦楽団体ではどのような合奏曲が弾かれているのだろうか。ウェブ上で非科学的方法により抽出した全国20数団体の、2003年~2007年における延べ約100回の演奏会の記録からデータを採ってみた結果をご紹介したい。

ベスト10の順位は以下の通りとなった。
(以下左から、順位 回数 作曲者 楽曲)


第1位 18 ブリテン シンプルシンフォニーOp.4
第2位 15 レスピーギ リュートのための古代舞曲とアリア第3組曲
第3位 12 チャイコフスキー 弦楽セレナード ハ長調Op.48
同上 12 モーツァルト セレナーデ第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
第5位 11 ヴィヴァルディ 「和声と創意の試み」Op.8-1ホ長調「春」
同上 11 エルガー 弦楽セレナード ホ短調Op.20
同上 11 グリーク 組曲「ホルベアの時代から」Op.40
同上 11 ドヴォルザーク 弦楽セレナーデ ホ長調Op.22
第9位 10 モーツァルト ディヴェルティメント ニ長調 K.136
第10位 9 芥川也寸志 トリプティーク

演奏時間や難易度の手頃さゆえか、ブリテンとレスピーギの強さが際立っている。実に全演奏会の3割でこの2曲の内のどちらかが取り上げられた格好で、当データベースでの「★★大定番」の名に恥じない存在感を示している。

チャイコフスキーとドヴォルザークの2大セレナーデ対決は、今回はチャイコフスキーに軍配。グリークのホルベルクあたりと合わせ、演奏会のメインを張る存在であることに揺るぎは無かった。

大健闘は芥川也寸志のトリプティークか。もちろん以前から十分な有名曲ではあるが、ここまでの頻度で取り上げられているとは意外であった。2003年が作曲・初演50周年という節目の年だったことと関係しているかもしれない。

第11位以下には、次のような曲目が並ぶ。
(以下左から回数、作曲者、曲名)

8 グリーク 2つの悲しき旋律Op.34「胸のいたみ」「過ぎた春」
8 パッヘルベル カノン ニ長調
7 アンダーソン プリンク・プランク・プランク
7 ヴィヴァルディ 「調和の霊感」Op.3-11ニ短調
7 コレッリ 合奏協奏曲Op.6-8ト短調「クリスマス協奏曲」
7 バッハ ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調BWV1048
6 ヴィヴァルディOp.8-4ヘ短調「冬」
6 バッハ 管弦楽組曲第2番ロ短調BWV1067

5 ヴィヴァルディOp.8-2ト短調「夏」
5 ヴィヴァルディOp.8-3ヘ長調「秋」
5 ヴィヴァルディOp.3-6イ短調
5 シベリウス アンダンテ・フェスティボ
5 シューベルト 弦楽四重奏曲第14番ニ短調「死と乙女」
5 バッハ 管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068(「G線上のアリア」)
5 バルトーク ルーマニア民族舞曲Sz.56
5 モーツァルト ディヴェルティメント ヘ長調K.138
5 モーツァルト ディヴェルティメント変ロ長調K.137

4 ヴィヴァルディ 「調和の霊感」Op.3-10ロ短調RV580
4 ウォーロック カプリオール組曲
4 ヴォーン・ウィリアムズ グリーンスリーブスによる幻想曲
4 スーク 弦楽セレナーデ変ホ長調Op.6
4 ニールセン 弦楽のための小組曲イ短調Op.1 FS6
4 バーバー 弦楽のためのアダージョOp.11
4 バッハ 2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調BWV1043
4 バッハ ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV1042

3 アルビノーニ アダージョ
3 ヴィヴァルディ Op.3-2ト短調
3 エルガー 序奏とアレグロ
3 武満徹 3つの映画音楽
3 バルトーク 弦楽のためのディヴェルティメント
3 ヘンデル 合奏協奏曲Op.6-1ト長調
3 ホルスト セントポール組曲
3 ホルスト ブルックグリーン組曲
3 マーラー 交響曲第5番よりアダージェット
3 メンデルスゾーン 弦楽交響曲第9番
3 モーツァルト セレナータ・ノットゥルナ
3 おもちゃの交響曲

ウォーロック(カプリオール)、ニールセン(小組曲)、武満(映画音楽)あたりは、一部の好事家の趣味的な世界から一般的なレパートリーへ定着した新しい流れとして見ることができよう。嬉しい現象である。

シューベルトの死と乙女は、いずれもマーラー編曲による弦楽合奏版。近年急速に楽譜や演奏が国内で一般化した様子が窺える。

以上、管理人の感覚的な判断としては、総じてプログラムの多様化は若干ながら進んでいるのではないだろうか。今後も多くの隠れた名曲を聴衆にアピールして弦楽ファンをさらに増やすよう、各団体のますますの盛況をお祈りしたい。


余談: 当初は当サイトの守備範囲に合わせて室内楽レベルも含めた調査とするつもりだったのだが、調査方法をウェブに頼るとなると、手軽な情報はグループ団体のホームページの「演奏履歴」を見ることぐらいしかなく、定常的に団体を組むことが少ないアマチュアの室内楽演奏記録を拾うのは容易ではないことがわかった。室内楽というジャンルの一面をよく表している話とも言えそうだ。


・対象団体の抽出は、検索エンジンの上位ヒット、記録の採り易さ等を元に、有名団体、小団体をバランスさせたもので、あくまでも非科学的、恣意的な方法による。
・2003年~2007年の5年間の演奏会記録を対象。
・ただし、臨時小編成での室内楽演奏、内々での小規模演奏会、などは集計外とした。
・全楽章を通奏しない場合も1回にカウントしてある。
・演奏曲目中、ポップス等の明らかな編曲物は対象から除外した。